Share

第25話  

Author: リンフェイ
彼女は上司から追いかけられ、愛されるのを楽しんでいた。上司から贈られる花やプレゼントは全て受け取っていた。でも彼女から上司へはキス止まりで、その先のことは彼女は一線を越えなかった。

 貞操が堅いわけではなかった。彼女は佐々木俊介に気を持たせているだけなのだ。

 彼女は彼を求めていた。しかし不倫相手になりたいわけではなく、佐々木俊介の奥さんになりたいのだ。

 しかし、佐々木俊介と今現在の妻は長年恋仲で大学の同級生同士だ。あの佐々木唯月とかいう女は以前この会社の財務部長だった。成瀬莉奈が会社で働き始めた頃には佐々木唯月はもう辞職した後で専業主婦になっていた。

 成瀬莉奈は佐々木唯月とは会ったことはなく、会社の古株の同僚から聞いて知っていた。佐々木唯月は結婚後一年で息子の佐々木陽を産み、それからはずっと家で子供の世話をしていると。しかも出産の後体型は変わりまるでボールのように太ってしまったらしい。

 彼女は佐々木俊介が自分の妻のことを豚みたいだと不満を漏らしているのを何度も聞いたことがあるのだ。

 成瀬莉奈は心の中で佐々木唯月は本当に馬鹿な女だ、結婚したのだからスタイルを保つよう努力しなさいよ。ぶくぶく太って誰があんたなんかを好きでいられると思っているのと悪態をついた。

 佐々木唯月に彼女が佐々木社長と不倫しているのを責める資格はない。佐々木唯月自身がスタイルを保つ努力をしていないばかりに佐々木部長が飽きてしまったのだ。しかも一日中家にいて無駄遣いばかりしているとは。

 佐々木唯月が節約してお金を使ってくれれば、佐々木部長は彼女にたくさんのお金を費やすことができるわけだ。

 佐々木唯月のことに触れると、佐々木俊介はすぐさま嫌悪感を顕にし言った。「あの女は本当に豚だ。あいつを見ただけで一気に冷めるね。息子のためじゃなけりゃあ、さっさとあんな女とは離婚してるわ」

 それにしても義妹のほうはスタイルをキープしていて佐々木唯月より若くてきれいだ。あの姉妹は田舎出身のくせに、内海唯花の気品は唯月よりも満ち溢れていた。

 もちろん、以前の佐々木唯月も高嶺の花といった雰囲気があったが、今ではあのように太ってしまい、気品、美しさ全てが台無しになっていた。

 佐々木唯月は自分の夫が秘書と不倫関係にあるなんて思ってもみなかった。彼女は夫に秘書がいるとは知っていたが、電
Locked Chapter
Continue Reading on GoodNovel
Scan code to download App

Related chapters

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第26話  

    この時、何台かの高級車がゆっくりと近づいてきた。その中の一台はロールスロイスで結城理仁が乗っている車だ。その高級車を道の横に止めると結城理仁が車の窓を開けて傷のある男に大きな声で話しかけた。「隼翔、ここで何をしている?」 「車をとめて買い物してただけだよ。車に傷つけられちゃったけどな」 「車に傷つけた奴を捕まえなかったのか?」 結城理仁は本能的に言った。「車に傷つけた奴を探し出してやろうか?」 「いや、いいよ。その人の電話番号は教えてもらったから。車の修理が終わったら彼女に電話して弁償してもらうさ。ここ東京で東隼翔から逃げられるわけないだろ」 東隼翔は車に戻るとすぐに車のエンジンをかけ結城理仁に言った。「行こう」 結城理仁はそれを聞いてそれ以上何も言わずに車の窓を閉めた。そしてすぐに数台の高級車が連れ立って走っていった。 一日が過ぎるのは本当に早かった。 あっという間に夕方だ。 高校生が夜の塾帰りに本屋に立ち寄る時間を過ぎてから、内海唯花はキッチンで明凛と一緒に夜ご飯を食べるつもりだったが、姉から電話がかかってきた。 「唯花ちゃん、お姉ちゃんね、一日悩んだんだけど、正直言ってもうどうしようもなくて、あなたにお願いするしかないみたい」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「今日午前中にショッピングに行ったんだけどね。陽を連れてベビーカーを押してる時にうっかりマイバッハにぶつかっちゃって。あんな高級車ちょっと修理しただけでもかなりの金額になるでしょ。見積もってみたけど、私のへそくりじゃお金が払えるかどうか。夫には相談したけど、怒られて何も言ってくれないの。私が招いたことだから、自分で解決しろって言われたわ」 それを聞いて内海唯花は心が締め付けられた。「お姉ちゃん、大丈夫よ。その車の修理代はいくらかかるの?」 「まだ分からないの。車の持ち主に私の電話番号を伝えてあるから、修理が終わってから彼から電話がかかってくるわ。それから弁償する」 「お姉ちゃん、陽ちゃんも二人とも無事ならそれでいいよ。修理代がいくらかかっても私達で払いましょ。私がお金を貸しておくから、心配しないでね」 佐々木唯月はむせび泣きしながら言った。「唯花ちゃん、お姉ちゃん本当にダメな人間よね。厄介事ばかり引き起こして」 「お姉ちゃん、わざとじゃない

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第27話  

    結城理仁は何も言わなかった。 午前中、東隼翔の車に傷をつけたのは、まさか本当に彼のまだ会ったことのない義姉だとは。 「結城さん、もう遅いですし、私先に休みますね」 姉を慰めにいったとはいえ、自分も自信がなく内海唯花も心理的にダメージを受けていた。 彼女は結城理仁にそう言うと、自分の部屋へ帰っていった。 結城理仁は唇を開き何か言いたそうにしていたが、彼女はもう部屋に入ってしまった。 ベランダの花は......彼女が明日の朝、起きて気づけば自分できれいにするだろう。 しかし、結城理仁は少し心がスッキリしなかったのだ。まるで自分は良い事をしたから彼女から褒められるのを期待しているかのようだった。 「結城さん」 部屋がまた開き、内海唯花は部屋から出てきて彼に尋ねた。「洗濯機を買ってきましたか?いくらでした?」 「洗濯機二台で十四万だ」 内海唯花は姉の家にある手動洗濯機と比べて、結城理仁が買ってきた洗濯機はそれに見合った値段だと思い、何も言わなかった。 「内海唯花」 結城理仁は彼女がドアを閉めようとした時に彼女を呼び止めた。 「君のお姉さんのことだが、心配しなくていい。君たちの負担が大きいなら俺に言ってくれ、君のお姉さんに少しお金を貸しておくから」 内海唯花は感激して言った。「結城さん、どうもありがとうございます。修理代がいくらかわかってから姉とお金が出せるか相談してみます。もし、足りなかったら姉の代わりにあなたからお金を貸してもらいますね」 結城理仁とは結婚してまだ数日しか経っておらず、お互いのことはまだよくわかっていなかったが、姉が困っている時に彼がこのような態度をとってくれたことに内海唯花はとても感激した。 「ああ。もう遅い、早く休んだほうがいい。あまり悩むことはない、必ずどうにかなるさ」 「結城さんも早めに休んでくださいね。おやすみなさい」 内海唯花は彼におやすみの挨拶をした後、部屋へと戻った。 結城理仁は少しリビングのソファで休んだ後、起き上がって自分の部屋へと戻った。 ドアを閉めると、携帯を取り出して東隼翔に電話をかけた。 「隼翔、もう寝たか?」 東隼翔は笑って言った。「まさか、俺は基本、夜中の二時か三時くらいにしか寝ないよ。どうしたんだ?酒のお誘いか?俺の家に来いよ、コレ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第28話  

    「大した傷じゃないから保険使うのもめんどくさくてさ。理仁、急になんでこんなこと聞いてきたんだ?」 結城理仁は少し黙ってから口を開いた。「その車にぶつかった女性は、俺のばあちゃんの命の恩人のお姉さんなんだ。あの姉妹はお互い助け合って生きてきたらしい。その女性は今は専業主婦で収入がないんだと。おまえの車に傷をつけてしまってから、金が足りないんじゃないかと困っているんだ」 東隼翔「......あ、こんな偶然が?結城おばあさんの恩人の姉さんって、おまえどうやって知ったんだ?」 結城理仁は嘘をついた。「うちのばあちゃんは恩人の彼女のことがすごく気に入っているんだ。よく彼女に会いに行ってて、その恩人の様子がおかしかったから気になってどうしたのか聞いたらしい。それで恩人のお姉さんだとわかったんだ」 「まじか、その恩人とやらのお姉さんの名前は?なんていうんだ?」 「佐々木唯月、旧姓は内海だ。恩人の名前は内海唯花」 「唯花と唯月か、確かに姉妹って感じだよな。おまえんとこのおばあさんの恩人の姉さんなら、修理代は必要ないさ。たったの数十万なんかどうだっていいんだ。ただ俺は被害者だからさ、寛大な態度で相手に一円も出させないようじゃ、彼女に今回の件が教訓にならないだろうと思ってな。もしかしたら、次また他の誰かの車にぶつけてしまうかもしれないだろ」 東隼翔は有名な東家の四男で今年三十五歳になった。この家の継承者ではないが、自分の力で東グループを創立し、傘下の会社も少なくなかった。間違いなしの億万長者だ。 彼は豪快でさっぱりした性格の持ち主で義理堅い人物だった。若く血気盛んな頃は各地を放浪していた。顔にあるナイフでついたような傷はその時についたものだった。美容外科に行くのも面倒くさく、顔に刀傷があればもっと威厳があるだろうと言っていた。 「彼女に教訓を与えたいって言うなら、修理代によっては彼女に弁償してもらえよ。もしかなりの金額になるなら俺のばあちゃんの恩人に免じて、少し安くしてやってくれ」 二十万程度、結城理仁や東隼翔のような金持ちの男にとっては、お金と呼べるものではなかったのだ。 佐々木唯月が仕事がなく収入がないからといっても、二十万くらいであれば人から借りて返済できない額ではなかった。 「大した金額じゃない、ただ二十万くらいさ。じゃあ、彼女に

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第29話  

    この夜、内海唯花は寝ていても落ち着かず、夢ばかり見ていた。次の日目が覚めると、元気がなかった。 以前と同じように、彼女は昨晩洗濯機で洗っておいた服を干しにベランダへ向かった。 その時初めてベランダにはすでに彼女が服を干すための洗濯竿が準備してあって、広々したベランダはいっぱいの花で埋め尽くされていることに気がついた。多くの花は咲いているか蕾をつけているものだった。花の大きさの大小にかかわらず、花びらがたくさんついた八重になっている豪華な花だった。 内海唯花の関心は直ちにこの花たちに注がれた。 彼女は服を干した後、昨日の朝買ってきた花用の棚を組み立てて、その上に並べた。 しばらくの間花たちをいじくり回し、ふと誰かの視線を感じ、パッと頭を上げると結城理仁の漆黒の瞳と目が合った。彼の目つきは鋭く冷たかった。 結婚して数日過ぎていたおかげで、内海唯花は彼のその冷たい様子にはもう慣れてしまった。 「結城さん、おはようございます」 内海唯花は挨拶をすると、すぐに彼を賞賛して言った。「結城さん、お花すごくきれいです。いい仕事するじゃないですか!」 彼にお願いした事を、彼はパーフェクトにこなしてくれたのだ。 結城理仁は低い声で言った。「今後は君が解決できない事があれば、俺に言ってくれ」 彼女がお願いすることは、彼にとっては朝飯前なのだ。 「わかりました」 内海唯花は嬉しそうにニコニコしながら、再び花をいじるのに専念しはじめた。 「あの、どの花屋で買ったんですか?花たちすごく丁寧に育てられていますよ」 結城理仁は「いろんな花屋に行ったからな。名前はよく覚えていない」と嘘をついた。 内海唯花はそうですかと言っただけで、それ以上は聞かなかった。彼がしてくれたことが満足でそれだけで十分だったのだ。 「今日は朝ごはんに何を買ったんだ?」 彼にそう聞かれて、内海唯花は朝ごはんのことを思い出し、慌てて携帯を取り出して時間を見ると、もう七時を過ぎていた。彼女は立ち上がり、申し訳なさそうに彼に言った。「結城さん、今朝は朝ごはんのことをすっかり忘れていました。今買いにいったら間に合いますよね。顔を洗って買いに行ってきます。何が食べたいですか?」 結城理仁は淡々と答えた。「好き嫌いはないから、君が選んでくれ」 彼に好き嫌いが

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第30話  

    「結城さん、どうしましたか?」 内海唯花はベランダから家の中にいる彼を見て言った。 結城理仁はあのドーナツを食べながらベランダに出てきて言った。「君のお姉さんの事なんだが、あまり心配しなくていい。ぶつけたあの車の持ち主はうちの会社のある重要な取引先の車だ。昨晩思い出して東社長に連絡をしたんだ。彼があの車の修理代は二十万くらいだろうと言っていた」 彼女は今土いじりをする元気はあるようだが、結城理仁は彼女の精神状態はいつもより悪いことに気づいていた。明らかに昨夜よく眠れなかったのだろう。その原因はもちろん彼女の姉の件だ。 内海唯花は顔を上げて彼を見つめた。彼が揚げドーナツを普通に食べているのを見て、心の中で彼は特に好き嫌いはなく手がかからない人だと考えていた。しかしその口は彼にこう尋ねた。「どうやって会社の顧客の車だと確信したんですか?」 彼女の姉もその車の持ち主の名前を知らなかった。ただ相手が背が高くて勇ましい人で、顔に刀傷があり、人を怖がらせるような容貌の人であるとしか分からないのに。その怖さに陽も怯えてしまった。 「昨日の午前、東社長がうちの会社に来て俺が担当したんだが、その時彼の車に傷があるのが見えてどうしたのか尋ねたんだ。東社長が子供を連れた女性がベビーカーを押しているときに車にぶつかったんだと説明してくれたんだ」 「昨晩君が俺にこの事を話した時に、まさかとは思ったんだ。それで東社長に電話をして確認してみた。君のお姉さんは佐々木唯月っていうんじゃないか?東社長は君のお姉さんの電話番号を教えてもらって、修理が終わったらまた電話をかけて修理代について話すと言っていたよ」 内海唯花は花をきれいに並べ終わると、立ち上がって背を伸ばして言った。「私の姉は確かに佐々木唯月と言います。ということは本当に偶然が重なったんですね。結城さん、東社長は本当に修理代は二十万くらいだと言っていたのですか?」 二十万なら姉にも出せる金額だった。 「俺が聞いた限り、彼はそう言っていたよ」 内海唯花はほっとした。「ならよかったです。結城さん、本当にありがとうございます」 姉妹二人は修理代がかなりかかるのではないかと心配していた。今修理代は二十万くらいだと知って、内海唯花は太陽がもっと明るく眩しく見えた。 それと同時に、彼女がスピード結婚をし

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第31話  

    妹の夫が聞いてくれたということは、おそらく東さんに取りなしてくれたおかげで彼女から全額もらうのではなく、少ない金額になったのだろう。 もちろん、十八万でも今の彼女にとってはかなりの出費だった。この出費を教訓にして今後外では気をつけることにしよう。高級車には、傷をつけてはいけない! 「旦那さんはもうすぐ帰ってくるんでしょ?」 「うん、明日帰ってくるよ」 「それならよかった。明後日私と旦那は早めに行くわね。あなたが自分でご飯を作るんでしょ?手伝うわよ」 妹と長年ずっと助け合って生きてきた佐々木唯月は、仕事もできるし、社交上手、料理や育児、家事全般も難なくこなせる人だった。ただ今は子供がいて時間がとれないし、給料もないので家で大人しく旦那の言うことを聞いて、専業主婦をやるしかなかった。 姉妹は電話でしばらく日常のことについておしゃべりしてから電話を切った。 「結城さん、毎日夜は残業ですか?」 「何か用があるのか?」 「もうすぐ週末になるので、おばあちゃんやあなたの両親も食事しに来ますよね。うちは物が少なくて寂しすぎます。この二日時間を作って家具を見に行きたくて、必要なものは買ってきたいんです」 結城理仁は黙った。 彼の仕事は本当に忙しく、毎日のスケジュールもパンパンだった。彼女に付き合って家具を買いに行く時間は本当に時間的に難しいかったのだ。 彼が何も言わないのを見て、彼の立場に立って考えてからこう言った。「時間がなければ、私自分で買いに行ってきますね」結城理仁は頷いて「この家の女主人は君だ。家の事は君が主体になって決めてくれていい。大きな問題は俺に言ってくれればいいから」と言った。実際に彼には家の細かいことに気を配るような時間はないのだ。 「わかりました。明凛に今日は店に行かないで買い物に行くと伝えます」 彼らの家は、ここからスタートだ。 結城理仁は何も言わなかった。 彼を身を翻し部屋へと戻っていった。 そしてすぐに部屋から出てきて内海唯花にひとこと言った。「仕事へ行ってくる」 「車の運転気をつけてくださいね」 内海唯花は心のままに念を押して言った。 結城理仁はあのまだ食べていない肉まんと豆乳を持って出ていった。 彼は内海唯花にお金持ちではないことを装うために買った車を運転してトキワ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第32話  

    昨日の夜、内海唯花はわざわざ結城理仁が帰ってくるのを夜遅くまで待って、土曜日の朝一緒に市場へ野菜を買いに行くことを約束した。昨晩おばあさんに電話をかけて確認し、今日来るお客さんは二つか三つテーブル分必要になることを知った。結城理仁の弟たちも来るからだ。 彼女と結城理仁はもう結婚したのだから、結城家の嫁になった。両親だけでなく結城家の同世代の者たちにも兄嫁に会わせて、お互いを知っておかないといけないとおばあさんは言いたいのだ。 今日買わなければならない食材はとても多く、彼女一人では持って帰ってこられないだろう。それで結城理仁に車を出してもらえば、余分に食材を買っても持って帰る心配はしなくて良いのだ。 あの日と同じように、朝六時に結城理仁は内海唯花のLINE電話に起こされた。 寝起きが特に悪い結城理仁は、もはや修行僧にでもなれるほど本気で耐えては耐え、内海唯花に怒鳴りつけたい気持ちを抑えていた。 「結城さん」 内海唯花の澄んだその声は聞くと非常に心地よかった。 結城理仁は眉間を押さえ、低い声で言った。「あと十分時間をくれ」 「わかりました。今朝食を作っていますから、後で食べてくださいね。食べ終わったら買い物に出かけましょう」 結城理仁「......一体何時に起きたんだ?」 今は朝六時なのに、彼女はもう朝食を準備し終えていた。 「五時過ぎですね」 一人で二、三テーブル分の料理を作るのだから、かなりの時間がかかるため彼女は早起きするしかなかった。そうでないと間に合わないからだ。 結城理仁はそれ以上は何も言わず、黙って電話を切った。 家長に会うことを彼女はとても重要視していた。今日来るのは彼の家族たちだ。彼女のこのような態度に彼はとても満足した。 十分後。 結城理仁は普段着で食卓に現れた。 彼女はまだ食べている途中で彼を見て微笑んで言った。「私が作った味噌汁飲んでみてください。姉はとても美味しいって言ってくれるんですよ」 結城理仁は自分の朝食を見ると、とても美味しそうで食欲をそそられた。彼はせっかく作ったのだからとその朝食を食べてしまった。確かに美味しかった。彼女の料理の腕前は確かなものだ。 彼は本当に美味しいものが食べられて幸せだ。 彼女の手作りの朝食は外で買ってきたものより安心だ。 内海唯

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第33話  

    二時間かけて市場を回りようやく帰ってきた。 出かける時は高級車に乗りあまり歩き回らない結城理仁だが、普段体を鍛えているし、武術を嗜んだこともある。しかし、内海唯花と二時間も市場で歩き回り、荷物まで持たされてさすがに疲れ果ててしまった。 まだ処理し終えていない書類や、延々と続く会議をやることになっても、女に付き合ってショッピングや市場を回るのはもうご免だ。 車を止めて、内海唯花が車から降りる前に結城おばあさんから電話がかかってきた。 「唯花ちゃん、あなたたち家にいる?私たちは下にいるわよ」 内海唯花は笑みを浮かべて言った。「おばあちゃん、私たち市場から帰ってきたばかりなの。そこでちょっと待ってて。すぐ行くから」 「あなた理仁くんと一緒に市場へ?」 おばあさんはそれを聞いて楽しそうだった。心の中であのツンツンして偉そうなお孫様が城下町におりて内海唯花と一緒に市場を回るなんて。 彼に一般庶民を演じさせるのもまた良いことだ。彼に普通の人の生活というものを経験させよう。 「うん、買い物に行ってきたの」 「理仁くんは普段仕事で忙しいから、この歳になっても市場を回ったことなんてないのよ。彼を連れてもっと出かけてちょうだい。唯花ちゃん、理仁に荷物を持たせなさい。彼は力があるわ、あなたは疲れないようにね」 結城理仁「ばあちゃん、一体どっちが本当の孫なんだ?」 内海唯花は車を降りて、片手で携帯を持ち電話をしながら、もう片方の手で後部座席のドアを開け、中から折りたたみ式のカートを引っ張り出した。表情で結城理仁にカートを開くように合図した。 「おばあちゃん、安心して、私は全く疲れてないから」 このカートでは買ってきた物を全て入れることはできなかった。彼女が買った野菜や果物はたくさんあって、載せられなかった。残りは結城理仁が手に持つことになり、彼女は最初から最後までとても楽ができ、ちっとも疲れてなんかいなかった。 「おばあちゃん、私たち今からそっちに行くわ」 「わかったわ、後でね」 おばあさんは自分から電話を切った。 内海唯花は携帯をズボンのポケットに押し込み、カートを押しながら両手が塞がっている結城理仁に言った。「結城さん、行きましょう。おばあちゃんたちが下で待っています」 結城理仁と彼女は肩をならべて歩いていった

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第254話

    「義姉さん、これは何ですか?」結城辰巳は魚介類の独特な匂いを嗅いだ。「魚介類よ。私の友達が海にバカンスに行って帰ってきた時にたくさん持って来てくれたの。ほとんど新鮮なものよ。私もあなたのお兄さんもそんなにたくさん食べられないから、あなた達におすそ分けしたくて」結城辰巳はおばあさんをちらりと見て、拒否しない様子だったので彼は「こんなにたくさんですか」と言った。彼の家では魚介類は普段よく食べているので他所からもらう必要はない。でも、義姉からもらったものだから、やはり大人しく受け取って家に持って帰ることにした。「おばあちゃん、家族のみなさんにもおすそ分けして食べてね」内海唯花はとても気が利いていて、それぞれの家庭用に袋を分けて入れていた。帰ってからその小分けされた袋をそのまま渡すだけでいい。中に入っている量はどれも同じだから。「わかったわ、みんなに分けるわね」おばあさんは結城辰巳が魚介類を車の上に乗せた後、自身も車に乗り、忘れずに内海唯花に言った。「唯花ちゃん、さっき理仁にメッセージ送ったの。後でここに来てあなたと一緒にご飯を食べるようにってね。その後また会社に戻って仕事しなさいって。今頃ここに来ている途中のはずよ。辰巳はあの子と同じ会社で働いてて、辰巳はもう来たでしょ。早く戻ってご飯を作って、見送りは不要よ」内海唯花「……おばあちゃん、そんなことならもっと早く言ってくれればいいのに。後で食べ残しを温めて食べようかと思ってたの、私一人分がちょうどあるから」おばあさんは言った。「今から作り始めれば間に合うわ。さあさあ、作りに行ってちょうだい。理仁はいつも遅くまで残業しているから、多めに料理を作ってたくさん食べさせてやってちょうだい」おばあさんの前だから、内海唯花も断りづらかった。おばあさんを見送った後、店には内海唯花一人になった。彼女は急いで携帯を取り出し、結城理仁にLINEを送って店に来ないように言おうと思った。彼のためにご飯を作るのが面倒だったのだ。しかし、彼女はLINEを開いてからすでに彼のLINEを消していたことを思い出した。いや、そうではなく、彼が先に彼女のを消したのだ。少し考えてから、内海唯花はブロックしていた結城理仁の電話番号を元に戻した。結城理仁は電話番号をこれまで誰からもブロックされたこと

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第253話

    九条悟は佐々木俊介が浮気をしていることを全く意外に思っていなかった。彼は言った。「君の奥さんのお姉さんは結婚してからかなり大きく変わっただろう。一方、佐々木俊介のほうは昇進して、彼の周りにいる女性たちは彼女よりもきれいだったんだろうな。時間が経っていくうちに、彼は自然と自分の妻に嫌悪感を抱くようになったんだ」結城理仁は冷ややかな目つきと声で言った。「彼女はどうしてあんなに変わってしまったんだ?それは、彼女が彼を愛しているからだろ。自分のスタイルがどうなろうが構わず、彼のために子供を産み育て、子供がいても旦那に安心して仕事をさせるために、一人で子供の世話と家庭のこともしっかりこなしていた。そのために自分の青春も美しさも捨てて家族のために尽くしたんだ」彼も義姉は結婚前と後での変化が大きく、少しはダイエットをしたほうがいいとはわかっていた。しかし、これは佐々木俊介が不倫をしていいという言い訳には決してならない。このような節操の無さは彼のDNAに刻まれていることで、以前はそれを表に出していなかっただけだ。今の彼は会社でも一定の地位に就き、仕事で成功を収め、おごり高ぶっている。それで自分の妻を見下し、嫌っているのだ。佐々木俊介がもし今の唯月を醜いと思っているなら、彼女にダイエットするように言えばいい話なのだ。佐々木唯月は彼に対して今でも情がある。彼が彼女にダイエットするように言えば、彼女は絶対に努力して痩せるはずだ。しかし、佐々木俊介は彼らの結婚生活におして、至る所で唯月を抑圧し、彼女が何をしてもダメ出しばかりで、家庭の出費までも半分ずつ負担するようにと言い出した。佐々木俊介は唯月が今仕事がなく、収入源がないということを知らないのか?「それもそうだな。良識のある男だったら、自分の奥さんが100キロ太ったとしても、心変わりなんかしないだろう」誠実な男というのは、ただ妻が醜くなったとか、太ったとかいう理由だけで浮気したりしない。つまり佐々木俊介は唯月に飽きてしまっただけなのだ。それに、彼がわざと佐々木唯月が豚のようにぶくぶく太るように差し向け、それを理由にして彼女に愛想を尽かし浮気したんだという言い訳にしようとしているのかもしれない。「佐々木俊介にばれないようにしろよ」九条悟ははっきりとこう言った。「安心しろよ、俺がやるっていう

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第252話

    「一緒に飲むか?」結城理仁が住む所にはどこであろうと美酒が用意されている。「遠慮しとくよ。酔うと困るしな。君は酔っ払っても奥さんが世話してくれるだろうけど、俺は独り身なもんだから、酒に酔いつぶれても誰も世話してくれないからさ」「そんな可哀そうな奴みたいに自分で言うな。見合いでもしてさっさと結婚決めて、奥さんに面倒見てもらえ」九条悟はへへへと笑って言った。「君を反面教師として、俺はゆっくりと縁が来るまで待つことにするよ」「俺のどこを反面教師にするって?俺の結婚生活はうまくいってる!」「ああ、ああ、そうだな、うまくいってるよ。ここ数日、君ときたら顔はずっとこわばりっぱなして、仕事の効率もめっちゃ上がってるしな。ただ部下はきつそうだぞ。ここ数日は、会社で自主的に残業する社員と深夜まで残業する奴がどんどん増えてるんだ」結城グループは強制的に従業員を残業させることはしない。ただ自分の仕事をきちんと終らせれば残業をしなくていいだけでなく、退勤時間前でも帰っていいのだった。しかし、自分の仕事は必ず終わらせなければならない。終わらなければ残業は必須だ。その日の仕事を次の日に持ち越してはいけない。結城理仁は今妻と冷戦状態であるから最悪な気分で、その鬱憤を仕事で晴らしている。彼は本来仕事のスピードが速い。それが今、全神経を集中させて仕事に専念しているのだから、仕事の効率は本来のものよりもかなり上がっていて、三日でやる仕事を彼はたった一日で完成させられる。ただ部下たちはそのせいで苦労しているわけだが。「アシスタントの木村さんはあまりの忙しさで水一杯飲む時間すらないんだぞ」結城理仁はサインペンを置いた。「彼らは君に辛いと言ってきたのか?」結城グループ内で、結城家の当主で社長である彼をみんなは敬い恐れている。みんな辛いと思った時には、九条悟に訴えるしかない。九条悟のほうは結城理仁と違って冷たい雰囲気はなく、かなり温和だから言いやすい。しかも結城理仁は九条悟に並々ならぬ信頼を寄せていて、彼をかなり頼りにしている。二人はまた親友でもある。だから、九条悟に訴えておけば、自然と結城理仁の耳に入るというわけだ。「別に訴えられてはないけど、俺が自分で見てそう思っただけだよ。理仁、俺の言うことをよく聞いて、今夜は何かプレゼントを買って帰っ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第251話

    夕方の退勤時間近くになって、九条悟がたくさんの書類を持って社長オフィスのドアをノックし入ってきた。結城理仁は彼をちらりと見て、すぐ自分の仕事を続けた。彼が座ってから理仁は言った。「お前のアシスタントは何をしているんだ?」「アシスタントは妊娠中だからな。俺って優しいから、彼女に苦労させたくないんだよ。疲れさせちゃったら、旦那さんが怒って俺のとこに来るかもしれないだろ。だから、俺自ら来たってわけ」九条悟はその書類の山を親友の目の前に置いた。「これには全部目を通しておいたよ。問題ないから、君は書類にサインしてくれるだけでいい」九条悟は書類を置いた後、立ち上がりコップにお茶を入れ、また座ってそれを飲みながら目の前にいるその男を見た。結城理仁はかなりのイケメンだ。彼が毎日毎日厳しい顔つきで、冷たい雰囲気を醸し出していても、その整った容姿を隠すことはできなかった。今のように見た目を重視する時代において、彼に何度か会ったことのある若い女性なら、彼をそう簡単には忘れることができないはずだ。とある女性は例外だが。例えば彼らの社長夫人である内海唯花だ。九条悟は本当に内海唯花には感心していた。たった一か月ちょっとの短期間で、彼ら結城グループで最も奥手である男の心の殻を破り、もうすぐその心を完全に開いてしまおうとしているのだから。ただ問題は内海唯花が結城理仁に対して全く恋愛感情を持っていないということだ。彼女はどうしてこうも心を動かされないのだ?結城理仁は彼女に対してとても良くしてあげているじゃないか。彼を慕っている女たちは結城理仁をちょっと見ただけで何年も忘れられないのに。神崎姫華のように何年も諦めずに彼をひたすら追いかけようとしている人もいる。結城理仁は内海唯花のために前例を破るほど、彼女に良くしてあげているというのに、彼女は全くといっていいほど心を動かさない。これこそ九条悟が彼女に感心している点なのだった。「何を見ている」結城理仁は顔を上げてはいないが、親友が自分を見つめているのがわかっていた。「君はカッコイイなぁと思ってさ。理仁、本当にイケメンだよな。その厳しく冷たい性格のおかげだ。もし優しい奴だったら、みんな君のことを女の子だと勘違いしちまうぞ。もし君が女なら、君より綺麗な女性は絶対いないだろうから、他の女性は恥ずか

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第250話

    佐々木俊介はそう言うと、仕事を一旦放っておいて、成瀬莉奈を連れて会社を出た。彼は部長で、成瀬莉奈は彼の秘書だ。普段、佐々木俊介が商談をしに行くときには、成瀬莉奈をよく連れて行くから、二人が一緒に会社を出ていくのを見ても、誰も何も言わなかった。ただ清掃員のおばさんは会社のゲートで佐々木俊介が車で成瀬莉奈を連れて出て行ったのを見て、年配の警備員に言った。「佐々木部長は毎日成瀬秘書と一緒にいて、唯月ちゃんはこの二人が浮気していると心配じゃないのかしらね」佐々木唯月がこの会社に勤めていたから、昔からここで仕事をしていた従業員たちはみんな彼女のことをまだ覚えているのだ。警備員は清掃員のおばさんを一瞥して「いまさら?」という顔をした。彼は周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、声を潜めておばさんに言った。「毎日会社の隅から隅まで掃除しているってのに、何も知らないのか?佐々木部長は成瀬秘書ととっくにできているんだぞ」清掃員のおばさんは意外そうに声を上げ、興味深々に尋ねた。「あなたはどうやって知ったんだい?」「目のある人ならわかるだろうよ。仕事が終わった後、成瀬秘書はいつもブランド品を身につけ、綺麗に着飾ってるんだぞ。彼女が持っているバッグは5、60万円もかかるルイヴィトンのものだ。成瀬秘書の収入で、あんな生活はきっとできない。彼女は一般家庭の出だろう。ブランドの服、バッグ、それとネックレス、それは絶対佐々木部長が買ってあげたもんに決まってるさ。仕事が終わったあと、あの二人が仲良さそうに夜食を食べているのを見た人もいるんだぞ。あの二人の間に何もないなんて、誰が信じる?」おばさんは言った。「唯月ちゃんはまだ知らないでしょうね。彼女は佐々木部長と結婚した時、会社の全員をパーティーに招待したでしょ。あの時の唯月ちゃんがどれほど幸せそうに見えたか、いまだに覚えているよ。花嫁の唯月ちゃんは本当に誰の目も奪うほどきれいだったわ。あれからまだそんなに経ってないのに、佐々木部長はもう浮気してるなんて。男はね、やっぱりお金があると豹変するもんね」彼女は佐々木唯月がかわいそうだと思っていた。「唯月さんはこの二年間あまり会社へ佐々木部長に会いに来なくなったな。きっと主人が浮気しているのをまだ知らないんだろう。成瀬秘書もそんなに大人しい性格じゃないから、待

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第249話

    「あいつは今太っていてブスになってるから、連れて行ったら、絶対皆に笑われるだろう。それは俺の顔に泥を塗るのも同然だ」言い終わると、佐々木俊介は成瀬莉奈の綺麗な顔を少しつねって、彼女を褒めた。「今ではあいつは莉奈と比べ物にならないよ。今の俺の心は莉奈のことでいっぱいで、あいつに対しては、本当に何の感情も湧かないんだ。この前、あの女に包丁を持って、町で追いかけられただろう?あいつが謝って、以前より俺に対する態度は良くなったけど、どうしても許せなかった。なにせ、あの日俺が逃げ切れなかったら、殺されてたかもしれないんだからな。あいつがあんな毒蛇みたいな女だと知ったのは、あの日がはじめてだった。陽のためじゃなければ、本当にあの家に帰りたくなかったんだよ。それに、お母さんと姉さんも言ったんだ。家の頭金を出したのは俺だ。それに、結婚前に買った家で、家のローンも俺が返しているんだぞ。どうして俺が住めなくて、あいつ一人が住めるってんだ?それに、あいつは俺の家族とも仲が悪いぞ。莉奈、俺の親と姉に会っただろう。俺の家族どう思う?」成瀬莉奈は少し考えてから答えた。「いい家族だと思うよ。ご両親とお姉さん夫婦も親切で、礼儀正しい人よ」彼女は佐々木家の人の前では佐々木俊介によくして、どこからどこまで彼の世話をしていたから、佐々木俊介との関係はとっくにばれていた。佐々木家の人間は彼女にそこまで親切には接していなかったが、彼女が佐々木俊介の愛人だからといって、彼女に偏見を持って不親切なことなどは一切しなかったから、教養のある人達だと思っていた。その後、成瀬莉奈が佐々木俊介によくしているのを見て、彼の母親は態度を変えて、親切に接していた。姉である佐々木英子も成瀬莉奈を連れて買い物に行って、何着も高い服を買ってあげた。「うちの家族はあんなにいい人で、唯月に対しても親切に接してあげたのに、あいつは一方的に家族と仲よくしようともしない。そのくせに、俺の親がよくないとか、姉が悪い奴だとか言ったんだ。とりあえず、あいつの目から見ると、佐々木家の人間は全員悪い奴で、あいつ自身は、世界で一番完璧な人間だと思ってやがる」佐々木唯月がこの話を聞いたら、きっと卒倒してしまうだろう。佐々木家の人間は自分の本性を隠すのが上手なのだ。佐々木唯月は何年も社会人として働いていて、自分が愚

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第248話

    さすがはタイプが同じ人間同士、どうりでこの二人が親友になるわけだ。直接お金にものを言わせるやり方で、色気のないやり方だ。店にいた時、結城理仁は内海唯花に言った。ただで神崎姫華のものを受け取るわけにはいかないから、彼から唯花にお金を送金し、そのお金を神崎姫華に返せばいいと思っていた。そうすれば、神崎姫華に借りを作らなくて済む話が、内海唯花の主張で完全に論破された。夫婦二人はもうお互いのLINEを消して、内海唯花のほうは彼の電話番号もブロックしている。LINEの友だち登録をしない限り、送金も、おしゃべりすらもできない。今になって、結城理仁はようやく少し後悔した。自分の度量の無さで、ほんの少しの誤解のため、妻と冷戦状態になり彼女のLINEまで削除してしまった。ほら見ろ、今また登録したくても、言い訳の一つも出せないだろう。……スカイ電機株式会社にて。佐々木俊介はウキウキしながら社長のオフィスから出てきた。成瀬莉奈は上司の嬉しそうな顔を見て、彼について専用のオフィスに入りながら、ドアを閉めた。「佐々木部長、社長に何か言われたんですか?嬉しそうですけど」佐々木俊介は社長がサインした後の書類を置いて、手を伸ばし成瀬莉奈の腕をぐっと引っ張って、自分の胸に引き寄せ、彼女の細い腰に手をまわした。そして、ニヤニヤしながら彼女に言った。「莉奈、当ててみ?」「昇進?それとも給料をあげてもらった?」佐々木俊介は首を横に振った。彼の上には二人の副社長がいて、その一人は社長の親友で、もう一人は社長の実の弟だった。だから、佐々木俊介はもう副社長に昇進することができないと思っていた。部長で彼はもう十分満足していた。給料が上がるのもあり得ない話で、せいぜい少しボーナスが上がる程度だが、彼は副業があって、今ではほんのボーナスなど眼中にない。「もう、じらさないで、早く言ってよ、どんないいこと?」成瀬莉奈はわざと甘えた声でねだった。佐々木俊介は彼女の頬にキスをして、かすれ声で言った。「キスさせてくれたら、教えてやってもいいぞ」「やだ、もうキスしたじゃない?」佐々木俊介は愛おしそうに彼女を見つめた。成瀬莉奈は彼に見惚れて、とうとう彼の頭を引き寄せ、自ら彼の唇にキスをした。激しいディープキスをしてから、佐々木俊介はやっ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第247話

    彼がそのまま動かないことに気づいて、内海唯花は彼の方を見た。「どうしたの?」結城理仁は唇をぎゅっと結び「何でもない」と返事した。「先に会社に戻るよ」「うん」内海唯花は適当に返事をして、また皿洗いに集中した。暫く彼女の背中をじっくり見つめてから、結城理仁は彼女に背を向け、キッチンを出た。佐々木陽と遊んでいたおばあさんは孫が出てきたのを見て、少しむっとして文句をこぼした。「理仁、唯花さんの手伝いをしなかったの?昼間ずっと忙しくて、きっと疲れてるわ」結城家の男ならみんな妻を溺愛している。おばあさんの息子たちも全員自分の嫁に非常に気を使って大事にしていたのだ。孫の代になってみると、どうしてこのような簡単なこともできないのか。「彼女が必要ないと言った。ばあちゃん、先に会社に帰るよ」結城理仁は低い声で説明してから、おばあさんの前を通り過ぎた。おばあさんが口を開けて何かを言おうとした時、結城理仁はもう大股で店を出ていた。彼女は力なくため息をついて、その言葉を呑み込んだ。店を出た結城理仁は車に乗り、店から離れた。暫くして、九条悟から電話がかかってきた。「どうした?」結城理仁は交差点で車を止め、信号を待っていた。「お前の一番下の義弟が刑務所に入れられたね」「そいつは義弟じゃない」結城理仁は冷たい声で親友が言った呼称を訂正した。彼と内海唯花の冷戦はまだまだ続いていて、この夫婦関係もいつまで続くかわからないのだ。内海家の人を親戚などと認めるわけがない。内海唯花すら彼らを親戚とは認めていない。「はいはい、わかった、義弟じゃないね」九条悟は内海家の人達が内海姉妹に何をやったのかを知っているから、さっきのは冗談でもきついと自覚した。「内海陸はチンピラを何人か連れてお前の奥さんを殴るつもりだったが、逆に仕返しされボコボコにされたあげく、警察に捕まって勾留されてるらしいぞ」内海唯花は怪我しなかったが、あの不良たちは拘束されたわけだ。「内海家の奴らがまた何かしようとしているのか?」結城理仁は内海家の人を見張るように九条悟に頼んだから、彼らに何か動きがあると、内海唯花より、結城理仁は先に知ることができる。「金で内海陸を留置所から出そうとしているんだよ」「人を集めて通り魔のように邪魔して殴ろう

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第246話

    隣に座った孫が黙々と食べてばかりいて、妻への気遣いもしないのを見て、おばあさんはテーブルの下で孫の足を突いた。結城理仁は状況がわからないというように黒い瞳でおばあさんを見つめて、全くおばあさんの行動の意味を理解していないようだった。おばあさんは頭を抱えたいほど困っていた。彼女は夫と愛をこめて初孫を育てていた。後継者になる孫の教育に尽力していたが、どうしてうまくいかなかったのだろう。仕事の能力なら、おばあさんは何の不満もなかった。結城グループは結城理仁のもとでさらに発展し、神崎グループをはるかに超えて、ビジネス界の大黒柱のようになってきたのだ。しかし、その能力と裏腹に、感情面ではマイナスになっているんじゃないかとおばあさんは疑っていた。「唯花さんにエビの殻を剥いてあげて」仕方なく、おばあさんは小声で孫に言った。良きチャンスは掴むべきだとこのバカ孫は知らないのか。結城理仁はその薄い唇をぎゅっと結んだ。内海唯花は手がないわけじゃないだろう。自分が育てた孫のことなのだ。おばあさんは彼のことをよく知っている。結城理仁が唇を引き結ぶと、何を考えているのかすぐわかる。おばあさんは孫を睨んだ。結城理仁はおばあさんに睨まれ、一言も出さず、黙ったまま箱の中から二つの使い捨て手袋をとり、それをはめてから手を伸ばしてエビの皿を目の前に持って置いた。彼は淡々と言った。「内海さん、君は食べて、俺が陽君に剥いてあげるよ」おばあさん「……」唯花に剥いてあげろと言ったのに、どうして陽ちゃんになったのか。本当に救いようのない馬鹿だ!このバカ孫!内海唯花は結城理仁のやりたいことは遮らず、うんと答えて、使い捨て手袋を手から外した。結城理仁の動きは素早く、間もなく佐々木陽の皿は剥いたエビで一杯になった。しかし、結城理仁のその動きは止まらなかった。彼は佐々木陽の皿にはエビを入れず、次は別の皿に置いた。全てのエビを剥き終わってから、相変わらず何も言わず、内海唯花に一瞥もせず、そのままその皿を内海唯花の前に置いた。全部やり終わったら、彼は黙ったまま使い捨て手袋を外した。そして、何食わぬ顔で自分の海鮮スープをひと口飲んだ。内海唯花の料理の腕前はなかなかのものだ。彼は好き嫌いが激しいが、目の前の料理はどれも美味しいと思

Scan code to read on App
DMCA.com Protection Status